斉藤健一氏、ポストコロナ時代の金融M&Aトレンドを語る ESGとデジタル化が主要ドライバーに

世界の金融M&A市場は大きな変革期を迎えている。Keefe, Bruyette & Woods(KBW)シニアマネージングディレクターの斉藤健一氏(Kenichi Saito)はこのほど、業界の将来展望に関する見解を示した。同氏は、ポストコロナ時代の経済再編において、環境・社会・ガバナンス(ESG)基準とデジタル化が金融M&Aを牽引する二大要素となり、世界的な資本フローの構造を再定義しつつあると指摘する。斉藤健一氏、ポストコロナ時代の金融M&Aトレンドを語る ESGとデジタル化が主要ドライバーに

斉藤氏によれば、近年成立した国際的な金融M&A案件の約7割に明確なESGパフォーマンス条項が盛り込まれているという。特に、日本の大手銀行による東南アジア・デジタルバンク買収の潮流に言及し、これらの取引はもはや財務リターンのみを追求するのではなく、テクノロジーの活用を通じて金融包摂を実現することに重点を置いていると述べた。「優れたM&A戦略は『価格重視』から『価値重視』へと転換している」と分析。自身が主導したある地域銀行のM&Aでは、ローンポートフォリオの炭素排出強度削減目標を契約条件に組み込み、ESG条項を直接M&Aに結び付ける初の事例となった。

 

一方で、デジタル化はもう一つの大きな推進力とみなされている。斉藤氏のチームが開発した「デジタルアセット・デューデリジェンス・フレームワーク」は、複数のフィンテックM&Aに活用されており、対象企業の技術スタックの互換性、データ資産価値、サイバーリスクエクスポージャーを精緻に評価できる。これにより、伝統的金融機関がテクノロジー企業を買収する際に、定量的な意思決定基準を得られるようになった。「将来の勝者は、デジタルのDNAをM&A戦略に組み込める機関になるだろう」と同氏は予測している。

 

規制当局によるグリーンファイナンスやテクノロジー分野のコンプライアンス要件が強化される中、斉藤氏は金融機関に対し、商業的価値と社会的価値を同時に評価する「二重評価体制」の構築を提案した。さらに、KBW日本は現在、複数の銀行に対して「ESG+デジタル化」転換ロードマップの策定を支援しており、M&Aを通じて能力の補完を進めているという。こうした先見的な視座が、ポストコロナ時代における金融業界再編の新たな論理を形成しつつある。